やめなかったら成功する以外ない

40代で「指名される人」になるために必要なこと

金光:今年34歳になったんです。この間、中村さんからもらった言葉がいろいろ残ってるなって。当時のグループLINEを見返してて。

中村:なにも覚えていないですよ。おそろしいなあ(笑)

金光:2017年、8年前です。「やってくと、周りが私という人の仕事の方向性をつくってくれるもんだよ!」と言ってくれたのがすごい残ってて。あのときまだバイトをしてたんですけど、今はありがたいことにバイトせずに生きていけるようになって。でもそれって本当に周りの人がつくってきてくれたおかげだなってひしひしと感じているんです。

で、続けて「30代はそのまま突っ走ればいけると思う。40代になったら、前の実績や経験を見て指名でしか仕事が来なくなるから、30代に無理してでもかっこいいと思う事をやっとくと先がある」って言っていただいて。これを今日あらためて見て「うわ~」って!なってます。

中村:なんか、いいこと言ってるね(笑)

金光: 34歳は何をやっておいたらいいと思いますか?

中村:好きなことやってください。

金光:シンプル!でもそうですよね。私もようやく、ちょっと余裕が出てきた感じがあって。仕事のやり方も少しずつ慣れてきて、同じ量をこなしてても、気持ちや時間の余白に好きなことを持てるようになってきたんです。今年に入ってから、特に。中村さんは34歳の頃ってどんなかんじでした?

中村:30代はね、なにも考えないで仕事だけしてればいいから楽しいですよ。30代ってみんな仕事をくれるじゃないですか。上の人が「ちょっと使ってみよう」って感じで使ってくれる。

でも年齢を重ねていくとね、使う側が年下になってくる。そうなってくるとね、10個下の人から「使ってやろう」とはなかなか言えないから。

金光:たしかにそうですよね。使う側も気遣いますよね。

中村:そうそう。「あの先輩、昔の憧れで一緒にやりたくて」みたいな枠にいかないと使ってもらえなくなるよね。

金光:それめっちゃ怖いですね!

中村:でもそういうことだと思うね。ずっと上はいないんだよ。僕ももうこの年齢になるとさ、20代や30代前半の頃に仕事をくれてた会社の偉いディレクターやプロデューサーはもういないんだよね。

金光:ああ、現場にはいない!

中村:現場どころか会社にもいないんじゃないかな。15歳上だったらもう65歳だもん。案外、いつまでもいると思っていた偉い人たちがいなくなっているね。

金光:40代に入ってからは、仕事の向き合い方は変わりましたか?中村さんって今、若い人とめちゃくちゃお仕事されているじゃないですか、それって30代から変わってきたものなんですか。

中村:全然そんなことはないかな。何も考えず来たものを受けてるだけだから。

金光:私は何か目標を立てることは、ちょっと苦手で。未来にこんなことをやりたい!と目標を立てたことが全然ないんですよね。

中村:でも目標によって縛られることもあるからね。仕事が来てるんだったら受けておけばいいんじゃないかな。何もこだわらないでやっておけばよかったと思うこともけっこうあるな。

金光:振り返ってみて「あれはやらずに正解だったな」と思う選択ってありますか?

中村:20代の頃は、でかい仕事が来てたし、誰でも知ってるバンドに加入してくれみたいな話も来てたし
それこそレコード会社から引き抜きもあったりしたけど、2000年代前半ぐらいの時点で「たぶんこのレコード会社のシステムは崩壊する」って思ってたんですよ。

どうせネットが来るんだし、メジャーの会社が持ってるのは流通網で、物流ができるっていうだけ。それが全部崩れちゃったときに残るのは制作能力の有無だけじゃないすか。効率化の話で全部外にアウトソーシングしていく流れになっちゃうと何もできないから。

そうなるとね、逆に1から勝手に制作できる能力があった方が絶対勝ちに決まってると思って。
それなら、外に依存せず1から音源をつくれる能力を持ってる方が絶対強い、と思った。だから、自分で始めたんです。元々は、自分の音楽を作るつもりしかなかった。

金光:そうなんですね!

中村:うん。でも、ただつくるだけの人で終わってたと思う。実際、思った通りにいった面もあるし、ぜんぜん違った面もある。

ならなかった面っていうのは、そうなったら1人勝ちみたいな気持ちでいたけど、でもそもそもよく考えてみたら自分が好きなバンドっていう形態がレコード会社のシステムの一部なんだっていうことに気づいて。レコード会社が全部なくなったバンドを録音するスタジオも続けてられないしさ。

実際そうなってきてるけどね。全員がバンドっていうシステムで、あんなにお金がかかる方法でやらなくてもいいじゃないすか。でもバンドは好きだから、そこは消えたら悲しいなって。

金光:消えて欲しくないですよね。

中村:そう。バンドって、めちゃくちゃコストかかるけど、やっぱ好きだからね。だからこそ、「残っててほしいな」と思ってる。

やりたいことを辞めずにいるという選択

金光:やっぱり、中村さんは尖っているイメージなので。

中村:学校を辞めたときとかね。

金光:美学校の先生ですか?

中村:いや、美学校に限らず全部辞めました。でも5年後とか10年後にこうなるだろうなっていう予測はしてましたよ。

金光:うわー、それすごいな~!

中村:でも、いろいろ調べてると「昔の人も同じようなことやってたな」って気づくんですよ。20年前、30年前にも似た動きをしてた人たちがいて、その延長線上に今がある。だから予測はするけど、当たるかどうかとか、うまくいくかどうかにはあんまりこだわってない。

金光:無理に合わせたりしないってことですね。

中村:うん、わかんないから。天気と一緒ですよ。結局、自分が「やりたいことをどれだけ辞めずにいられるか」だけだと思う。

金光:やっぱり「やってる人が残ってるな」という感覚はありますよね。自分の近くだけ見ても、そうなのかなってかんじます。

中村:シビアな話するとさ、結局お金が回ってれば、なんとかなるわけじゃないですか。だから続けられない人って、どこかで才能のせいにしがちなところがあると思うんですよ。

「こういう才能があれば上に行ける」とか、「こういうスキルを身につければ」みたいな話、けっこうしてる人多いけど「関係ないだろ!」って。まあ関係ないって言い切るのも変なんだけど、スキルなんて高めてて当然。

金光:そうですよね。

中村:音楽をやってるなら、まずは音楽の才能があるってとこまで行かないと、そもそも話にならないわけで。だから、そこから先の話なんですよ。案外、自由にやってるように見える人たちって、ちゃんとしてたりするんですよね。

たとえばポール・マッカートニーとかさ「ずっとツアー回って演奏してて、すごいな〜」みたいな、ぼんやりした感じで見てたけど、レコーディングのスケジュールとか見ると、もう滅茶苦茶なんですよ。

金光:へえ!

中村:当日に曲つくり始めて、歌詞書いて、自分のパートを全部レコーディングして歌まで入れる。これらを1日でやってたんですよ。どうかしてるんだけど。

金光:やり切れちゃうんですね。

中村:いやおかしいのよ。それがちゃんと回ってくっていうことはさ、何がおかしいかってポールマッカートニー、3〜4社経営してるんだよね。

金光:へえ

中村:現場管理会社だとかレコード会社を何個か経営してて、それをやってる上であの音楽活動をやってるわけだから。

金光:ちょっと異常ですね。

中村:だけど、やってるんだよね、みんな。僕の周りでもけっこういて。上場企業のトップに近いポジションで動いているけど、フジロックにも出ているみたいな。

金光:へえ!!!

中村:だから「好きにやれないと成功じゃない」っていうのは、逆にちょっと甘えかなと思ってて。自分が「いいな」って思ってきたものって、全部、経済の荒波をくぐってきたやつなんですよ。予算とかスケジュールとか、いろんな条件をクリアした上で成り立ってるから「すごい」って思えるんですよね。

金光:本当ですね。

好きにやれる状態をつくる戦略

中村:そこで「才能がどうこう」って話はね、正直そんなのどうでもいいなって思ってて。調べてみると、謎にめちゃくちゃ頑張ってる人たちって、いっぱいいるんですよ。「どうやって食ってんだろう?」って気になって、いろいろ調べてて。

金光:いろいろ調べますねー!

中村:一番ギョッとしたのはね、コッポラが映画で稼いでないっていう。

金光:え!?

中村:そうらしいですよ。実業家としてある程度成功して、不労所得でまわせる仕組みを作ってから映画をつくってる。評価されたお金も、自分の取り分は一銭も取らずに、全部次の作品に突っ込んでる。

金光:それは勝てないですね。

中村:そう。入ってきたお金をまた全部映画に回せるわけだから、他の人は同じ土俵に立てない。絶対に一段上のものができる。勝ちのシステムですよ。

金光:たしかに勝ちのシステムですね、それは間違いなく。

中村:それがわかってる人って、案外いると思う。たとえばシュワルツェネッガーもそう。オーストリアでボディビル世界一になってから、アメリカに渡って、経済学を学んで、不動産投資で資産1億くらい築いてるんですよ。

金光:えっ、そうなんだ!

中村:1億あったら、年利8%とかで回せば生活は問題ないわけです。それで「絶対にやめなくていい」状態で始めたら、やめなかったら成功する以外ないから、死ぬか成功するかどっちかしかない。それはもう絶対に勝てるシステムだからいけるんですよ!

金光:システムはわかってるのに、それを「やる」のがむずかしいんですよね。

中村:案外、外国の人ってそういうめちゃくちゃを平気でやるんですよね。手段を選ばず、とにかく「やれる状態」をまず作る。そこ、日本人ってカッコつけちゃうとこあるじゃないですか。

金光:たしかに!

中村:勝手に「誰かに認めてもらいたい」みたいなこと言う人、多いけど、そんなことないですよ。今からどうしたらいいのかは正直わかんないけど。でも、そこはね、長生きすればなんとかなる!

金光:そうですね。

中村:実際、たとえばピカソとかさ、あの人が大成功を最初からしてるっちゃしてるけど、何であそこまで成功してるかって言ったら、単純に平均寿命の倍生きているんだよね。それだけ長く生きたら歴史をまたいで活躍できるじゃないですか。

金光:はい。はい。

中村:それはもう、1人だけ200年生きてるみたいな感じで、恐ろしいこと。

金光:しかも死ぬ間際まで創作してたってことですもんね。めちゃくちゃですね、それは。

中村:ピカソは完全にめちゃくちゃで。若い頃にチンパンジーの睾丸を自分に移植して、精力が絶倫になって、長生きできるっていう謎医療があったらしくて。それ聞いて「いける!」と思って、本当にやってるんですよ(笑)。

金光:でも本当に長生きしてる!

中村:ほんとに倍生きたからね。調べたら出てきますよ。狂っているけどね。

金光:でもちゃんと、叶っちゃってるっていう(笑)

中村:そのくらいで死んでてよかったとも思うけど。今生きてたら、完全に倫理アウトですよ。駅前でいきなり17歳くらいの女の子ナンパして、「俺と結婚したらすごいことになる!」って無理やり付き合って、奥さんもいるのに、その奥さんと若い彼女をバトルさせて、みたいなことずっとやってるから。さすがにそれはね。

金光:間違いなく、今ならめちゃくちゃ叩かれますね。

中村:それをやるのはアレだけど、芸術方向にアグレッシブに生きるのは見習いたいとこだよね。はみ出した作品を作って叩かれるくらいの生き方をしましょう!

金光:見習っていきたいです!(笑) 

おわり

金光佑実(かねみつ・ゆうみ)|音楽家
様々なジャンルの楽曲制作を行う。ブランドムービーやCM、またTV番組への楽曲提供(テレビ東京『シナぷしゅ』、TBS『バナナサンド』他)、チョコレートプラネット、ニューヨークなどお笑い芸人のコント作品や単独ライブの楽曲を手がけることも多い。贅沢貧乏の舞台作品では多チャンネルでの制作にも取り組み、街や家の音採取から作曲の糸口を得るなど、出しどころに合わせた楽曲作りを日々たのしんでいる。

WEB:https://www.dadamusica.com/
INSTAGRAM:@dada.musica


中村公輔(なかむら・こうすけ)
neinaの一員としてドイツの名門Mille Plateauxなどから作品を発表。KangarooPawとしてソロ活動を経たのち、レコーディング・ミキシング・エンジニアとして活躍。近年は大石晴子、折坂悠太、すずめのティアーズ、Pablo Hailu、ルルルルズらのエンジニアリングで知られる。著書に『マイク録音が一冊で分かる本』『DTMミックスのコツが一冊で分かる本』『名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書』(リットーミュージック)など。

WEB:http://kangaroo-paw.com
INSTAGRAM:@shinkhai_kangaroo_paw